ラグビーW杯2019『日本対スコットランド』現地観戦レポート・感想

ラグビーW杯2019の日本対スコットランド戦の現地観戦レポートです。

ラグビーW杯2019の10月13日に行われた日本対スコットランド戦の会場である横浜国際総合競技場の写真

2019年10月13日に、第9回ラグビーワールドカップ2019予選プールA最終試合『日本対スコットランド』が横浜国際総合競技場(日産スタジアム)にて行われました。本試合のテレビ中継の視聴率は平均が39.2%で今年のテレビ番組の中でトップ、瞬間最高視聴率は53.7%だったとのことです。

私は有難いことにギリギリでチケットを手に入れる事ができて現地で歴史的瞬間に立ち合ったので、その記録と感動を少しでも共有できればと、観戦レポートおよび感想を記事にいたします。

まず初めにこの試合は、ブレイブ・ブロッサムズことラグビー日本代表が史上初の決勝トーナメント進出とベスト8を決めた歴史的1日という名目だけでは計り知れない様々な想いが詰まったものとなりました。

大会前

前回の2015年、イングランドで行われた第8回大会では、ティア1(伝統や強さにおいて格式高いチーム)に属する南アフリカ代表ことスプリングボクスを相手に、後に「スポーツ史上最大の大番狂わせ」「ブライトンの奇跡」と呼ばれる数十年ぶりのワールドカップ勝利をもぎ取っただけでなく、4戦3勝という好成績を収めたにも関わらずジャパンは予選プール敗退を喫してしまいました。

その一敗した相手がスコットランド代表であり、なおかつ南アフリカ戦の死闘から中3日という過密スケジュールも影響したのか45-10というスコアでの大敗でした。

スケジュールは規定のため仕方のない事ではありますが、その戦いは私を含めて南アフリカ戦にて一気にラグビーに引き込まれたにわかファン達に少なからず冷や水を浴びせるような悔しい敗戦であったことは間違いありません。

W杯が終わりHC(ヘッドコーチ)がエディ・ジョーンズ氏からジェイミー・ジョセフ氏に変わってからの新体制によるテストマッチでもリベンジは叶いませんでした。

しかし、本大会の組み合わせ抽選会で、再び日本とスコットランドが予選プールで対戦することが決まり、運命の悪戯か本当のリベンジがW杯本戦にて用意されることになります。

そして2019年、日本大会の開催が目と鼻の先になり嫌でも期待が高まりますが、私の中にはどうしても拭えない一抹の不安も残っていました。

チケットが全く取れずナーバスになっていた側面もありますが、4年間のテストマッチの戦績は、結果だけ見れば思わしくはなく、ジョセフジャパンの完成度は私の目で正確に見定める事は出来なかったからです。

開催後

しかし9月20日のロシア代表との開幕戦、次のアイルランド戦で私の心配は稀有に過ぎないものだったと見せつけられました。

FW(フォワード)がプレッシャーをかけて両ウイングが駆け抜ける、狙いすまされたキック、ティア1から反則をもぎ取るスクラムと、私が思い描いていたジョセフジャパンのパフォーマンスを完璧に遂行したのです。

そしてその中にエディ氏が灯した炎も確かに息づいています、アイルランド戦を通して発揮された接点での攻守の強さ、守り抜いてPG(ペナルティゴール)の量産で食らいついた前半は4年前のデジャブでした。

アイルランド戦の完勝を目の当たりにし、いてもたっても居られなくなった私は公式サイトとSNSに張り付き、どうにかスコットランド戦のチケットを手に入れました。

続くサモア戦でも勢いに乗ると強い相手チームの自由を奪い、渾身のBP(ボーナスポイント)を得ることに成功します。

その後のインタビューでキャプテンのリーチ・マイケル氏は個人的にスコットランドをボコりたいと強気の発言でサポーターを沸かせます。ボコれる、いや必ずボコってくれ。これは4年前を知るサポーターの総意であったと思います。

ホームのアドバンテージがあり、日程もこんどは相手が中3日と有利、実力もここまでの3戦で折り紙付き。そして何より今回の日本は、サモア戦の運命の4トライ目も踏まえて確実に「持って」いる。勝ち点の計算なんて無用な心配で、全勝で決勝トーナメントに行く。チームとファンは間違いなく同じ方向を向いています。

しかしそこに大会を根本から脅かす台風19号が発生しました。勢力や進路からW杯の継続すら危ぶまれる状況に一転し、世紀の一戦の可否以前に自分の身の安全から考えなければいけない、まさに針のむしろのような気持ちで台風に備えながら日々を過ごすことになります。

また10月9日、スコットランドがスタメンを殆ど休養させ、控え選手が中心のチームで望んだ対ロシア戦は、蓋を開けてみれば61-0とスコットランドの圧勝で、古豪の真髄をまざまざと日本に見せつけます。

アイルランド戦の勝利によって世界ランキングは順位が入れ替わったものの、やはりいまだ格上で、直接対決でもって倒さなければ立場は変わらないと気が引き締まる強さでした。

しかしライバルとしての矜恃を見せてくれた代表チームに反してスコットランド協会CEOは、あろうことか法的措置をほのめかして試合の開催を要求。

台風15号の傷も癒えていない中での予期される大災害を前にして、あまりにも短絡的な物言いかつ、試合さえできればと言う意思が滲み出ているものでした。

ただただ理解が足りない要求に憤り、目前に迫る台風を待つだけの中、ジャパンチームはなんと現地練習を強行、その光景は並々ならぬ覚悟そのものです。

試合当日

抱えきれないほどの不安を胸に迎えた13日、再び日本に大きな爪痕を残しながら台風が通る最中、横浜は台風一過による快晴、昼前には正式に試合開催がアナウンスされました。

この開催にあたって多数の方々の前日からの尽力があったことが報道されています。本当に感謝しかありません。

この状況でスポーツかという声も少なくありませんでしたが、ではいつまで殊勝な態度で居るのが望ましいのでしょうか?その線引きは誰がするのでしょうか。

日本という国を挙げての闘いに、1人でも多くの人々が同じ方向を向くことで救われるものもあるはずです。

舞台は整いました、テレビがはやし立てるものとは重みが違う、絶対に負けられない戦いです。

会場~キックオフ

赤白のレプリカジャージが多数の日本サポーターに対して、スコットランドサポーターの男性は民族衣装であるキルトのスカートを履いた方が多く、また会場では大きな応援旗を振る方や、バグパイプを吹く方がいて、その熱意と欧州におけるラグビーの歴史の深さを垣間見ました。

スタジアム前ではおそらくウェールズ対ウルグアイのパブリックビューイングが実施されており、会場への階段を椅子代わりにして観戦する人がたくさんいました。

会場の雰囲気において私個人の感想は、試合の正念場を除いて、ファンや選手たちはラグビーを体現するノーサイドの精神に満ち溢れていました。

ルール解説やパフォーマンスなど垣根を越えたファン交流、共に黙祷を捧げて、お互いの国歌を歌い、チーム関係なくトライやファインプレーには拍手を送りました。

当人だけが気持ちいい下品で不快なヤジや挑発行為も無いわけではなかったですが極一部で、私のスポーツ観戦経験の中では1番の雰囲気の良さでした。

試合開始直前のメンバー紹介では拍手が鳴りやみません。リーチマイケルなどの中心選手が呼ばれる際は歓声とともにひときわ大きく鳴り響きます。

試合開始後も日本は一丸となって、局面では誰もが文字通り手に汗握り、どこからともなく自然と馴染みのコール「ニッポン!チャチャチャ」が響き渡ります。均衡が破れてトライのチャンスが訪れたら殆ど全員が立ち上がり会場を揺るがす歓声を挙げます。

自宅でテレビ観戦している時は、日本代表のひたむきさに涙が出そうになる事がたびたびあり、生で観戦したら本当に泣いてしまうのではないかと思っていましたが、実際は一挙手一投足を見逃すまいと80分集中しっぱなしで泣く暇なんてありませんでした。

本大会の「四年に一度じゃない、一生に一度だ」というキャッチコピーはまさにその通りで、母国での国際試合はひときわ特別なもので、一生ものの経験であることを体感できました。

試合内容はまさに予選プールの過去三戦の集大成とも言うべきプレイの連続で、日本はストラクチャー(陣形が整った状態)・アンストラクチャー(陣形が崩れた状態)の両局面で強さを発揮していました。

両ウイングが駆け抜け、FWがオフロードパスで繋ぎ、スクラムで競り勝つ。1人がダメなら2人で倒し、オフロードパスは許さない。

中盤までの研ぎ澄まされたプレイによる度重なるトライによって、早い段階でブレイブブロッサムズの刃はスコットランドの喉元に突き立てられます。

日本のBP(ボーナスポイント)が中盤で1P確定したことによって、スコットランドの決勝T進出の条件「日本にBPを与えず勝つ」「4トライ以上のBPを取り、日本に2PのBP(4トライと7点差以内)を取らせず勝つ」の前者が無くなり、スコットランドは大きく流れを変えなければいけなくなりました。

残り30分未満でトライを重ねる事が必須であるためペナルティゴールを狙うメリットがほぼ無くなり、キックの名手であるレイドローは早々に交代。早くも勝負は決したかと思いましたが、やはりティア1の実力を持つスコットランドは怒涛の2トライで7点差まで詰め寄ります。

そのスコットランドの勢いはまさに鬼気迫るもので、日本のラックに何度もジャッカルを仕掛けるなどジェイミー・リッチー選手を中心に極めて激しいプレッシャーを続けざまに仕掛けてきたうえ、ヒートアップした選手同士の小競り合いが起こり、前半の雰囲気とはうってかわってたびたび不穏な空気が漂いました。

しかし、この時点で日本の決勝T進出だけを考えると、スコットランドが勝ち抜くには日本にもうひとつのBP(7点差以内の負け)を取らせないためにトライ1つ含めた15点を取らなければいけず、後半の体力消耗も踏まえると日本の圧倒的優位は変わりません。

それでも会場の日本サポーター達は「絶対に負けられない、守り抜いてくれ」というこれまでの紆余曲折を踏まえて、誰もがただ勝利だけを求めて日本に声援を送り続けていました。

試合終了間際の猛攻を水際で受け切ってボールを奪い返し死守する中、時計は進んでいきカウントダウンの大歓声が沸き起こります。そしてアラームと共にボールが蹴り出されてスタジアムは日本サポーターの喜びに包まれました。

その時のスタジアムは本当に美しく輝いて見え、離れたくないと心から思いました。さらに終了後の会場内や、スタジアムを出て帰路についている最中、互いの健闘を讃え合う両チームのサポーターの姿がそこかしこに見られました。

試合内容もさることながら、涙を呑んで負傷退場した具智元選手や、それぞれ頭部と肩を痛めた堀江選手とリーチ選手、控え全員出場とまさに死闘そのものでしたが、試合後の選手・サポーターそれぞれ交流する姿はノーサイドの精神に則った美しいものでした。

この勝ちによって日本は新たなステージに進みます。次の相手はこちらも因縁の相手である南アフリカです。直前のテストマッチでは完敗でしたが、今のジャパンだったら分かりません。

恥ずかしながらアイルランド戦でようやく見方を変えた私はそこから優勝も手に届くと確信しているので、残りの試合もテレビにかじりついて最後まで全力で応援していきます。

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